認知症
認知症は高齢化する社会において大きく重い課題となる状態です。認知症は一つの病気ではなく、状態を示します。この項では認知症の診断基準、原因、頻度、治療、ケア等について述べます。
なお認知症という用語は、2004年厚生労働省が痴呆に代わる言葉として使うように通知して以降、急速に普及し定着しました。
認知症の診断基準
わが国において広く認められた基準があるとは言えません。できるだけ同じ基準を持ちたいものです。ここではアメリカの精神医学会が1994年に提唱したDSM−Wを紹介します。これは世界的に最も広く使われ、日本でも普及しつつある診断基準です。
DSM−Wの基準
以下の5つの状態を全て満たす状態を認知症と言います。なおDSM−Wでは最初からアルツハイマー型認知症、血管性認知症などの診断基準があり、認知症だけの診断基準は示されてはいませんが、それぞれに共通する基準を認知症として以下に示します。
○記憶障害
記憶障害は認知症の基本的な状態です。記憶障害の程度や内容は問いません。一般的には新しいことが覚えにくくなります。
○ 失行・失認・失語・実行機能障害のうち一つを認める。
@失行:失行は、手足の運動麻痺や感覚麻痺がないにもかかわらす、目的にかなって手足の協調運動ができにく状態です。箸を逆さにもって食べようとしたり、コップでうまく水が飲 めなかったり、下着を上下反対にして着ようとしたりします。
A失認:失認は、対象物が何であるかの認識ができない状態をいいます。時計、花、鉛筆などが何であるかわからないか 、別の物と誤認します。その結果、時計を水につけたり、花を食べようとしたり、鉛筆で食べようとしたりする。失認の対象が家族や介護者のこともあります。
B失語:言葉を忘れて自分から話しにくい場合と言葉の理解ができないくい場合、あるいはこの両者が同時にある場合とがあります。言葉、特に地名や人の名前などの固有名詞を忘れ、「あれ」とか「これ」とか代名詞で表現しようとすることが多くなります。また自分からはすらすらと言葉が出るが相手の言葉が理解できないため会話が成り立ちにくい場合もあり ます。発音に必要な喉や舌などの動きにかかわる神経が障害されて言葉がでにくい状態をいう構音障害も失語に含めることもあります。
C実行機能障害:実行機能とは総合的な知的機能です。人がある状況に置かれた場合に、その状況を総合的に観察、判断し、適切な実行する機能をいいます。例えば、外出して道 に迷った場合に、周囲の状態を知り、これまでの記憶を整理し、そこからどのような方法で家に帰るかを判断し、それにもとづいて行動し目的を果たすのが実行機能の一例です。アルツハイマー病の初期にこの障害が現れることが多い。
○社会生活に支障をきたす 上記の2つの状態だけであれば健康な高齢者や脳血管障害の人に認めることがありますが、これだけで認知症とは言いません。これらの障害のために日常生活、家庭生活、集団生活、社会生活に支障が生じている状態でなければならない。例えば記憶障害があってガスの消し忘れが頻繁にあり、失語のために人との会話できにくく普通の日々の生活に難しくなるといった状態が社会生活に支障をきたした状態です。
○ 原因として脳や全身的な病気がある 認知症は器質的疾患の一つとされますが、脳の変化だけでなくエイズなど全身的な病気も原因として含めます。このため医師の診断を受けなければ認知症の判断ができないことになります。疾患を原因して確定することが困難な場合もあり、原因と思われ場合でもかまいません。
○ 意識障害はない 認知症は意識がはっきりしている状態です。呼んでもほとんど反応しない重度の意識障害の場合は判断が認知症の判断は不可能ですが、ばんやりしている軽度の意識障害の場合は認知症とは言いません。もっとも認知症の人が意識障害を伴っている場合があります。
このDSM−Wの基準について説明を追加します。
第1は、DSM−Wでは精神障害を小児と成人とに分けて分類しています。認知症は成人の精神障害に該当します。認知症は精神的に発達した後に発病する病気であることです。先天的または子供の頃から知的障害をもっている人が成人になっても認知症とは言いません。
第2は、認知症は進行性とみられることがありますが、DSMの認知症の基準にはこれは含まれていません。認知症の中には進行性のもの(アルツハイマー病)もありますが、進まないものも(低酸素脳症)、良くなるもの(脳血管性認知症)、治るもの(慢性硬膜下血腫)があるのです。
第3は、認知症になるといずれは「人格が崩壊する」などと言われることがありますが、DSM−Wにはこれについても何も触れていません。確かにアルツハイマー病やピック病の末期でのその人となりがなくなってしまうように状態になることがありますが、それは一部の認知症であり、多くの認知症の人は認知障害はあるが、感情豊かに生きています。
なお三宅は、認知症を以下のように簡単に定義しています。
「一度獲得した知的機能の低下により自立した生活が困難な状態」
すなわち、認知症は成人の病気であり、記憶障害など知的機能の低下があり、しかも通常の老化に伴う記憶障害ではなく、自立した生活が困難になるほどの知的機能の低下した状態です。例えば、買い物に行って勘定ができにくくなる、道に迷うことが多くなるといった状態で、誰かが常時見守っていないことには生活が営めなくなった状態です。
「介護保険法」の第8条第16項では認知症を以下のとおり定義しています。
脳血管疾患、アルツハイマー病その他の要因に基づく脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態」
頻度
認知症の人がどれほどいるのかの調査は我が国では多く行われてきました。しかしその多くは地域での在宅の高齢者の認知症の頻度についてであって医療機関や介護施設での調査は少ない。
地域と施設での高齢者全体では、厚生労働省の推計によると2000年に7.1%、2005年に7.6%ですが、2035年には10.1%(即ち高齢者10人に1人)です。
地域での年齢別(1987年)でみると、65-69、70-74、75-79、80-84、85-(才)でそれぞれの階層で1.2、2.7、4.9、11.7、19.9(%)です(医師会雑誌より)。
原因疾患別にみると(1995年)、アルツハイマー病、 脳血管疾患、その他の認知症 不明がそれぞれ43.1、30.1、8.1、18.7で、1987年と比べアルツハイマー病が増加しています(東京都調査)。
認知症の原因
認知症は、脳の神経細胞の減少や脳血管障害など脳の器質的疾患さらに脳機能の影響する全身疾患によることが基本ですが、認知症という状態は脳の変化だけで決まるわけではありません。認知症は、身体状態、精神状態、生活環境状態によっても左右されます。脳の器質的要因を1次要因、後者の3つの状態を2次要因と呼びます。認知症はこの1次要因と2次要因が合わさって決まります。
1次要因
@脳血管障害
脳血管障害は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に3疾患です。高齢者では脳梗塞が多い。脳血管障害は症状は急に現れますが、重度の意識障害に陥りそのまま死に至ることもありますが、後遺症として片麻痺など運動障害を残すことが多い。初発から認知症を認めることは比較的稀で、脳血管障害の再発を繰り返すなかで認知症を認めることが多い。最初から認知症のみを認める脳血管障害もあります。また小さい脳梗塞を繰り返すなかでゆっくり認知症が現れることもあります。脳血管障害は、通常高血圧、糖尿病、高コレステロール血症など脳血管障害の危険因子を管理・治療することで脳血管障害の再発を予防することで進行を止めることも不可能ではありません。また予防も可能です。脳血管障害による認知症を、脳血管性認知症または血管性認知症とよびます。
Aアルツハイマー病
アルツハイマー病は、脳の神経細胞の働きが低下したり死滅する進行性退行性の脳疾患の一つです。初発症状は記憶障害で、何時とはなしに現れゆっくり進行します。記憶障害に判断の障害が加わり、認知機能が全般的あるいはまだら状に低下します。重症化すると神経症状が現れ歩行が困難となり、嚥下障害も現れ、感情活動も低下し無関心、無表情の状態になります。アルツハイマー病による認知症をアルツハイマー型認知症とよび、脳血管性認知症と合併していることもあり、これを混合型認知症とびます。
Bその他
上記の2疾患の他に認知症の原因となる多種の脳の器質的疾患があります。頻度は低いのですが治る認知症、良くなる認知症、防げる認知症があります。
○ 硬膜下血腫(頭部打撲の後、脳の硬膜下に血腫が形成される。早期にこの血腫を取り除けば認知症が完全に治癒する)
○ 頭部外傷(頭部を強く打った場合であるがCT上明らかな変化はない)
○ 正常脳圧水頭症(脳脊髄液の循環不全で脳室の拡大により脳が萎縮する。早期にこの循環を改善する手術を行うと認知症がかなり改善することがある)
○ 脳腫瘍(髄膜腫など一般に良性の腫瘍が多い。早期に摘出することが認知症が治癒することもある)
○ 低酸素脳症あるいは無酸素脳症(窒息などにより一時的に脳細胞に酸素が欠乏することで脳の神経機能が障害される。治癒は困難である)
○ ピック病(前頭葉認知症あるいは前頭葉側頭葉認知症ともよぶ。初めに性格障害が現れ、その後認知症を認める。若年期認知症の一つ)
○ レビー小体病(変動する認知機能、パーキンソン様症状、幻視を3症状とする)
○ パーキンソン病(通常は振せんや硬直などの神経症状だけであるが進行す ると認知症を呈することがある)
○ ハンチントン舞踏病(文字通り踊るような無意識に身体の動かす。認知症を併発することが多い)
○ ダウン症(先天的な知的障害に認知症が加わる)
○ クロイツフェルト・ヤコブ病(プリオンによる伝性認知症疾患である。進行が早い。この異型がいわゆる狂牛病またはBSEである)
○ エイズ(病気の末期に認知症が現れることある)
○ アルコール性認知症(多量長期に飲酒している人のなかで認知症を呈することがある)
○ その他の進行性退行性神経疾患:大脳皮質基底核変性症、進行性核上麻痺、
○ 全身的な疾患:甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症など。
これらの疾患のなかには進行性のもの(ピック病)もあり、固定的なもの(低酸素脳症)もあり、治癒できるもの(慢性硬膜下血腫)もあり、予防可能なもの(アルコール性認知症)もあります。
2次要因
@身体状態
認知症の人の身体状態は認知症の状態や症状に影響します。発熱、脱水、貧血、便秘、甲状腺機能低下、難聴、視力障害などがあると認知症は悪化しやすい。例えば、食事が十分に摂れなかったり、下痢が続いて脱水状態になっていると認知機能が低下して認知症が悪くなることがあります。こうした時、経口で水分を十分に摂るか、点滴で補液するだけで認知症が良くなることは稀ではありません。認知症の人は身体状態を自ら訴えることは少なく、周囲の人が気付くか、身体面の検査で初めて認められることもあります。認知症が悪くなった場合、必ず身体状態の把握は必要であり、原因に応じた治療や介護で改善することもあるのです。また聴覚や視覚の低下がある認知症の人は、情報が不正確になり認知症が見かけ上悪くなることがあります。どこまで聞こえているか、見えているかの判断をしながら場合によってゆっくりはっきり話すなどの対応が望まれます。
A精神状態
精神状態も認知症に影響します。緊張、不安、焦燥、うつ状態、混乱、動揺など好ましくない精神状態は認知症を悪化させやすい。例えば老人ホームへ短期入所して環境が急に変化して馴染めない認知症の人は緊張しやすいものです。緊張することがその人が持っている認知機能が一層低下し判断がますます不確かになり認知症が悪化したような状態になることがあります。認知症の精神状態をよりよい状態にするための工夫が必要です。安心するような話しかけ、説得ではなく納得、プライドに配慮した対応、親しみを覚える生活環境などです。
ところで性格は認知症の人の言動に影響します。勝ち気で自己中心的な認知症の人は、自分ひとりで行おうとするもののうまく出来にくくなり混乱します。しかし失敗しても自分の非を認めようとぜず家族など周囲の人を非難することさえあります。このように認知症は軽くても性格的な傾向のために認知症の人の介護が困難なことは少なくありません。これに対して性格的に温和な認知症の人は、介護者の話に耳を傾けその指示に従い介護はしやすいでしょう。
B生活環境状態
認知症の人にとっての生活環境状態は人的環境と物的環境とに分けることができます。
人的環境とは、認知症の人を直接介護している人のことです。介護者が、認知症について正しく理解し、認知症の人のことをよく知り、介護の方法も適切であり、介護者が心身ともに健康で、よい人間関係のなかで介護していることは認知症の人によい影響を与えます。認知症がよくなることもあるでしょう。
物的環境とは生活する場の居住環境のことです。認知症の人が馴染んだ自宅や和めるグループホームで生活することは認知症によい影響を与えます。他方、長く暮らした田舎の家から都会の高層マンションの一室での生活を強いられることで認知症を悪くすることは稀ではありません。また身体の病気の治療のため殺風景な病院の病室で点滴、酸素吸入、心電図モニターなどに取り囲まれた生活が強いられると認知症が悪化するになりやすい。
なお「環境の変化は認知症の人によくない」と言われることがありますが、よい環境から悪い環境への変化が好ましくないのであって、認知症に無理解で悪い人間関係のなかでの在宅介護という悪い環境から、認知症に理解があり余裕をもって介護できる老人ホームというよい環境への変化は好ましいことは言うまでもないでしょう。一概に環境の変化が悪いわけではありません。
認知症の人の心理状態
認知症の人の心理状態を以下の4つに整理することができます。こうした心理状態を理解することで認知症の人の言動を理解し、本人にも家族にもよりよい生活や介護につながるでしょう。
○記憶障害
記憶障害は、認知症の人の基本的な状態です。記憶障害のない認知症はありません。この記憶障害は、加齢に伴う健康な高齢者の記憶障害とは異なります。まず新しくて大切なことが覚えにくくなるのです。健康は高齢者では新しいことは覚えにくくても、大切なことは覚えることができるし、覚えにくいと紙に書くなどして他の方法で覚えようとします。これに対して認知症の人は、新しいこが覚えにくいことに加え、大切なことと大切でないことの判別がつきにくく大切なことまで忘れてしまいます。また認知症の人の記憶障害は、粗大なことを忘れるようになります。例えば、夕食をすませた後、健康な高齢者では何を食べたか食事の内容をすべて覚えているわけではありませんが、食べたこと自体を忘れることはありません。認知症の人はこの夕食を食べたという粗大なことさえも忘れてしまうようになります。
こうした記憶障害のある認知症の人には、大切なことは紙に書いて渡したり壁に張って情報を提供しなければなりません。記憶障害があるので、さっき見たこと、聞いたこと、言ったこと、したこともすっかり忘れてしまっています。「さっき言ったでしょう」とか「同じこと何回聞くの」と言う事は認知症の人には避けたいものです。
○判断の障害
記憶障害に伴い判断も障害されます。この判断の障害を時系列的判断、抽象的判断、総合的判断の三つの障害にわけることができます。
@時系列的判断の障害
時系列的判断とは時間の流れのなかで判断することです。今朝は掃除したので昼は買い物に行き夜はテレビを見ようとか、朝食は終わったので次は昼食を食べることになっているといった判断ができにくくなります。食べているのが朝食なのか、昼食なのか、夕食なのか時間の流れのなかでの判断がつかないまま、目の前に食事が用意されているから食べるといた行動をとるようになります。またリハビリテーションで昨日まで起立訓練をしたから今日は平行棒での歩行訓練をするということができにくくなります。通常のリハビリテーションが有効ではありません。時系列的判断が障害されている認知症の人にはその時その時の対応と時間に関係なく判断できるようその時々の情報を提供しなければなりません。
A抽象的判断の障害
抽象的判断とは、なぜ診療所に受診するのか、なぜ老人ホームにいるのか、介護における人間関係など抽象的な事項に関する判断です。認知症の人はこの抽象的判断が障害されます。道路の信号を見ても赤、黄、青といった色という具体的なことは判断できますが、その色の意味する抽象的なことが理解できにくくなります。従って一人暮らしが難しいために老人ホームに居るその理由が理解できず家に帰ろうとしたり信号が赤でも渡ってしまうことになります。また抽象的なことがわかりにくいので具体的な食べ物やお金への執着が強くなります。
こうした判断の障害に対しては抽象的な事として説明して理解を求めるのではなく、具体的に判断できる情報を伝える必要があります。例えば病院では「00さん検査のため入院中です」と掲示したり、蛇口の閉め忘れが多いと「節水」と書いておくと効果的のこともあります。あるいは感情に働きかけて情緒的に安心できる環境づくりも大切です。
B総合的判断の障害
総合的判断とは、状況を総合的に判断することであり、認知症の人にはこれが困難となる。例えば、尿意をもよおした時にどの程度我慢できるか、便所はどこか、どのくらいで歩いてゆけるかなど総合的に判断しながら便所に行き排泄し後始末をするという総合的判断をそれに相応しい行動を取ることが苦手になります。従って総合的判断を求めるような同時に多くの情報を伝えることは避け、情報を分解して簡単に提供するのがよい。トイレの道順を「便所はこちら」「便所はここ」と簡単明瞭に示し総合的判断が必要としない方法で失禁を少なくすることができることがあります。
○過去に生きる
人は新しく大切なことは覚え、同時に新しくて大切でないことは上手に忘れながら記憶を新たに蓄え改めながら日々生活しています。しかし認知症の人は、記憶が障害され新しいことが覚えられないだけでなく、古い記憶も遡って忘れてゆくことがありま。これはアルツハイマー病に比較的よく見られる記憶の障害のされ方です。新しい記憶から古い記憶に遡って順次に記憶から失われ、80才の高齢者が過去30年の記憶を失うことになります。そうするとこの人にとって過去30年は無いに等しく、30年前すなわち50才頃の過去に生きているような状態になるのです。このため朝になると「会社に行く」とか「畑仕事に行く」とか、夕方には「子供が帰ってくるから夕食の用意をする」などと言うことがあります。あるいは鏡に写った自分の姿を見ても生きているつもりの50才の過去の世界のなかの自分と鏡の現実の自分の姿が合わなく、他人と思い語りかけをする姿をみることがあります。
こうした過去に生きている人にどうのように対応するのがよいかは一概には言えませんが、認知症の人が生きている過去の世界を受け入れることの方がその人にとってはよい場合が少なくありません。生きているつもりの世界を受け入れることで認知症の人が精神的に落ち着くことがあるからです。この考えから生まれたのが治療の一つが「回想法」です。
○感情,思い、プライド、性格は残る
認知症はあくまでも知的機能の低下であって、人の精神活動の一部である感情は残っていることが多い。食べた物、食べたことは忘れても、食べている時においしいとか、おいしくないといった感覚や食べることの満足感といったものは認知症のない人と同じです。また介護家族から自分の気持ちを害するような言葉―「ぼけでだめ!」など−をかけられたり、自分に苦手のことを指図されると感情的に反発します。知的機能が低下しているために正確に自分の訴えを伝えることが難しくなっていることから感情的な反応が強く出やすく、時には暴力として訴えざるをえない場合もあります。この残存している感情に対しては十分に配慮し感情に働きかけることは認知症ケアでとても重要です。同じようなことですが、認知症の人でプライドが残っていることには十分に注意し言葉がけにも工夫が必要です。元校長であれば「校長先生」と呼んであげた方がよいでしょう。
認知症の人の性格については一定したことは言えなません。認知症になって性格が変わる人もいれば、変化しない人もいます。変化する場合とは、別の性格に変わる場合と性格がより強くなる場合があります。几帳面な性格が認知症になって些細なことにこだわらなくなったり、鷹揚な人が短気になることもあるのです。この性格が認知症の人の介護を困難にしたり、容易にしたりします。また認知症の人自身も自らの性格で混乱しやすくなることも少なくありません。

