認知症辞典(三宅貴夫編認知症何でもサイトより)アイウエオ順
アルコール性認知症
長期に多量の飲酒を続けていると持続的で非可逆的な認知症の状態になることがあります。これはDSM−Wでは物質起因性持続性認知症の一つとされ、アルコール性認知症とよびます。長期多量に飲酒している一部の人でも断酒すれば認知症に改善がみられることがあります。
アルツハイマー病
わが国では認知症の原因のおおよそ60%を占める進行性の中枢神経の疾患。1906年にドイツの精神科医師アロイス・アルツハイマー(Aois Alzheimer)がこの病気を経過と脳の顕微鏡的変化などを初めて報告したので彼の名前がつけられました。当初は65歳未満の比較的まれな病気と考えられいたが、以前、老人に多い「老年痴呆」と呼ばれる病気と基本的には同じものであり、現在は年齢に関係なくアルツハイマー病と呼ばれ、これによる認知症をアルツハイマー型認知症といいます。
アルツハイマー病は、年齢と共に多くなり、いつとはなしに発病します。進行の仕方はさまざまで急速に進むアルツハイマー病もあれば、あまり進行しないアルツハイマー病もあります。その経過は5年から10年といわれているが20年近く生きる人もいます。症状は通常もの忘れのに始まり、判断が障害され、失禁や失語が現れ、末期になると行動が緩慢となり、横になっていることが多くなります。また感情も乏しくなり、喜怒哀楽の表情もなくなってきます。嚥下障害も現れ、食べたり飲み込まなくなります。こうした状態から通常は衰弱死します。アメリカでは死因の第7位です(2005年)
1)原因
原因は不明である。アルツハイマー病の人の脳にはアミロイド斑(老人班)や神経原線維性変化とよばれる変化を認められ、前者にはアミロイド前駆蛋白から生成されるベータアミロイド蛋白が、後者には異常タウ蛋白が関与しているという説(アミロイドカスケード仮説:アミロイド蓄積→神経原変化線維→神経細胞死)が有力です。また遺伝、活性酸素、炎症、ホルモンなどが複合的な要因として絡んで発病、進行させると考えられています。さらにアルツハイマー病では脳の神経伝達物質が減少し、また神経細胞の働きが衰え細胞数が減少し、結果的に脳萎縮が起こります。
2)診断
診断はDSM−Wのアルツハイマー型認知症に診断基準による。その概要は以下のとおりです。
1、記憶障害がある
2、失語、失認、失行、実行機能障害のどれかがある
3、1と2のために職業や社会生活に支障をきたす
4、いつとはなしに発病し進行性である
5、脳血管障害などの他の脳の疾患によらない
6、意識ははっきりしている
この診断基準の5以外は症状や状態だけで判断できますが、5については医学的な診察診断が必要となります。具体的にはCTやMRIなどの画像診断、血液検査を行い、他の疾患によらないと除外診断します。また長谷川式スケールなどの心理テストを行います。しかしもっとも重要なことは経過と現在の状態を正確に把握するこです。死後の脳解剖のほかアルツハイマー病を確定診断できる方法は現在なく、症状と検査から総合的に診断します。なお脳脊髄液中のタウ蛋白質がアルツハイマー病の指標(アルツハイマー病マーカー)として注目されてはいますが、診断の補助的なものです。
3)危険因子・保護因子と予防
欧米および日本でのアルツハイマー病の疫学的調査結果によると、危険因子として@年齢 A性別(女性) B遺伝 Cアポリポ蛋白E4 D高血圧 E高脂血症 F糖尿病 G肥満 Hホモシスティン Iタバコ J頭部外傷などが認められ、保護因子として @魚 Aビタミン(C、E、葉酸、ニコチン酸) B抗炎症剤 C女性ホルモン D飲酒(適量) E運動 F趣味などが認められています(ただし否定する報告もある)。これらはすべて非介入の追跡調査による結果で介入追跡調査ではなく、どの程度コントロールしたらアルツハイマー病が防げるかどうかよくわかっていませんが、危険因子を減らし、保護因子を増やすことでアルツハイマー病の一部を予防することができそうです。
4)遺伝
最近病気の遺伝についての研究が広く行われ、アルツハイマー病も例外ではありません。その結果、アルツハイマー病の遺伝についていくつかのことが解明されています。しかしその多くは65才未満で発病する若年期アルツハイマー病についてです。確かに、若年期のアルツハイマー病は兄弟の間で発症しやすいなど「家族性アルツハイマー病」と呼ばれる病気があり、遺伝的な関係は以前から指摘されていました。現在4つの遺伝子が確認されておりますが、これはわが国でもアルツハイマー病のごく一部で数%です。ただしアルツハイマー病になりやすい因子であると言われているアポリポ蛋白E4については高齢期のアルツハイマー病の要因として無視できないと言われています。こうした病気の遺伝の研究は今後もどんどん進んでいくでしょう。これは遺伝の最も基本となる核酸(DNA)の研究技術が開発されたことが背景にあります。これによっていろいろな病気の遺伝的背景が明らかにされつつありますが、その結果が治療につながることはごく一部でほとんどは原因の解明や診断に役立っているだけです。その結果、家族内に若年期アルツハイマー病が出た場合の他の家族への発病の心配、社会的な偏見や差別の助長など研究が進むことの不利益と思われることも少なくありません。しかしアルツハイマー病の遺伝の研究は今後とも進み、原因究明や治療につながる可能性があるので、研究と同時に患者や家族への「遺伝相談」などの体制をつくることも同時に進めて行くべきでしょう。
5)治療
@薬物療法
アルツハイマー病の薬による治療は、世界的にはドネペジル(商品名:アリセプト)、リバスチグミン(同エクセロン)、ガランタミン(同:レミニール)があり、これはどれも脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンを補なうものです。軽度から重度のアルツハイマー病に有効ですが、このうち日本ではアリセプトしか承認されていません。服用方法、効果、副作用において最も優れている薬はアリセプトと考えます。この他に、アルツハイマー病の薬として前期の薬と作用が異なり対象を中程度から重度のアルツハイマー病とするメマンチン(商品名:エビキサなど)という薬も欧米で使用されています。いずれもアルツハイマー病の進行を抑えたり、治すものではなく、症状を一時的に改善するだけで効果期間も限られています。アミロイド蛋白の産生を阻害する作用のある根本的治療薬と思われる薬の臨床試験が行われています。
A非薬物療法
音楽療法、回想法、リアリティーオリエンテーション、ガーデン療法、ペット療法、芸術療法、アロマテラピーなど試みられていますが、アルツハイマー病の症状を軽快する効果はあると言われていますが、科学的に証明されたものではありません。
エイズ
後天性免疫不全疾患(Acquired Immune Deficiency Syndrome)の英語の略称。エイズウイルスに感染すると発病するが、病気の進行に伴い末期に脳神経が侵され認知症症状を示すことがあります。昔、梅毒により脳神経系疾患の進行麻痺)で認知症がありましたが、現在患者はほとんどいません。それに代わり性的接触による「伝染する認知症」としてエイズがあるといえます。
クロイツフェルト・ヤコブ病
ビールスより小さい病原性をもつプリオンという蛋白質で運動障害や認知症状態を発症し進行の早い病気。ドイツのCreutzfeldtとJakob医師が初めて報告し、単にヤコブ病とも言います。記憶障害が急速に進み、不随意運動など神経症状も現れる進行の早く、1年以内に70%が死亡します。100万人に1人ほどの稀な病気であったが、海綿状脳症(BSE、狂牛病)との関連で注目され、人に感染した場合変異型クロイツフェルト・ヤコブ病と呼ばれていますが、病態は同じと考えられています。イギリスで多発し、わが国でも1名の患者が報告されました。また日本では脳外科治療でこの病気のプリオンに汚染された硬膜の移植によって発病している例が少なからずあり、薬害として裁判にもなりました。この病気は感染する認知症とも言えます。
軽度認知障害
英語でMild Cognitive Impairment(MCI)といい、アメリカのピーターソンの診断基準では次の5つを満たす状態をいいます。@物忘れの訴えがある。A客観的に記憶障害がある。B認知機能全般に大きな障害はない。C日常生活に基本的な支障はない。D認知症ではない。MCIの人はアルツハイマー病の前駆状態でアルツハイマー病になりやすいと言われていますが、診断基準も医学的根拠があいまいであるとする意見もあります。
混合型認知症
通常は、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症との両方がある認知症のこと、後期高齢者に多い。
高次脳機能障害
厚生労働省の2005年の診断基準によれば高次脳機能障害は以下のとおりです。
1. 事故による受傷や病気の事実が確認できる。
2. 記憶力、集中力の低下、感情抑制の困難などの症状があり、日常生活や社会生活に支障がある。
3. 原因と考えられる異常がMRI,CT、脳波などで確認できる。但し、脳の損傷などが時間的に消滅する場合は受傷当時の診断書で確認できればよい。
4. 受傷・発病前からの症状や発達障害・進行性疾患などが原因の場合は除く。
新しいことが覚えにくい、会話ができにく、仕事がうまくはかどらないなどの日常生活、仕事上の支障があり、正常でもなく認知症でもない状態であり、一見正常にみえ、怠けている、うつ病と間違って受け取られ、労働災害補償や交通事故の損害補償を受けられないなど社会的な理解を支援が得にくかったが、改善が図られつつあります。
若年期認知症
40歳以上65才未満で発病するまたはその状態にある認知症。18才以上65才未満する場合もあります。
原因疾患:若年期認知症の原因疾患は特別なものはなく基本的に高齢期認知症と同じでアルツハイマー病、脳血管障害が多いが、高齢期と比べ種類が多いのが特徴です。主なものとしてピック病または前頭葉型認知症または前頭葉側頭葉型認知症、レビー小体病、頭部外傷、クロイツフェルト・ヤコブ病、パーキンソン病、ハンチントン病、進行性核上麻痺、皮質基底核変性症、脳腫瘍、エイズ、ダウン症、低酸素脳症など。このうち初老期に最も特徴的な病気はピック病といえます。
認知症の人と家族の状況:社団法人認知症の人と家族の会の調査によると、若年期認知症の関わる生活上の問題として3つあります。第1は家族の精神的負担です。50才代の若年期認知症の人の夫や妻、さらにその子供への精神的影響が強い。第2は経済的な負担です。まだ就労していた夫が認知症のために退職せざるを得なくなると収入は減る、あるいは認知症の妻の介護のために夫が退職せざるをえない場合も同様です。第3は社会的差別です。介護保険で若年期認知症の一部が認定対象となりましたが、例え認定されても高齢者が多い老人ホームやデイサービスは利用しずらい現状があります。また交通事故や脳腫瘍などで若年期認知症になった場合は介護保険のサービスを受けることができません.なお社団法人呆け老人をかかえる家族の会や若年期認知症家族会など当事者団体の取り組みがあります。
進行性核上麻痺
症状は垂直性の眼球運動障害、歩行障害など神経症状で、認知症がみられこともあります。原因不明。英語で Progressive Supranuclear Palsy(PSP)という。
自己免疫性脳症
代表的なものとして橋本脳症があります。甲状腺の自己免疫疾患である橋本病(別称:慢性甲状腺炎)に伴って現れることが多く、混乱、見当識障害、記憶障害などとともに認知症を呈することもあります。橋本病は稀ではなく治療可能な疾患であり、脳症は稀な疾患です。
正常脳圧水頭症
治る認知症のひとつで、認知症と歩行障害と失禁が3大症状です。人の脳脊髄の周囲には脳脊髄液があり、この液はゆっくり循環しています。しかし脳腫瘍などでこの流れが阻まれると脳内の液の圧が高まり頭痛や吐き気を呈することがあります。これに対して脳手術のあと、あるいは原因不明に脳脊髄液の流れがゆっくり阻害されて脳内の液の圧は高くならないが次第に脳室に液がたまり脳を圧迫することがあります。こうした状態を正常脳圧水頭症といます。この場合、早期に発見して脳脊髄液の流れを正常に戻すことで認知症が治ることがあります。脳外科手術は脳室または腰の脊髄腔から腹空内へ細いチューブを設置するもので負担の少ない手術です。但し発見が遅いと治療効果が期待できないこともあります。
前頭葉型認知症・前頭葉側頭葉型認知症
前頭型認知症あるいは前頭側頭型認知症(英語でFront Temporal Dementia 略称FTD)ともあり、代表的な認知症としてピック病があります。このほか、前頭側頭型変性症ともいうことがあります。これは失語症が主な症状で認知症を呈さない疾患もあるからです。
ダウン症
染色体異常に伴う先天的知的障害のある病気。この病気の人が40才代にアルツハイマー病に似た症状を示すことがあります。このことからアルツハイマー病の遺伝の研究のきっかになったと言われています。また先天的な知的障害と新たな認知症が加わった状態をどのように診断するか、また知的障害と認知症とを併せ持つ人をどのようにケアするは余り取り組まれていない新たに課題です。
大脳皮質基底核変性症
大脳の皮質及び皮質下の基底核の神経細胞の変性により、ぎこちない運動などの皮質症状と左右差のある震戦などなどの錐体外路症状とを認めるが初期には記憶障害があまり目立たちません。英語でCortico-Basal Degeneration(CBD)という。
低酸素脳症
人の脳の神経細胞は1分あるいは3分間酸素が遮断されると死滅すると言われています。窒息、心筋梗塞、全身麻酔中の事故などで脳の血流が一時的に止まったりして、脳の広範囲で低酸素状態が長くなると神経細胞が非可逆的に死滅した状態が低酸素脳症です。重度では意識がほとんどなく痛みにも反応しない「植物状態」になりますが、軽度では注意散漫になったり物忘れが目立つ認知症の状態の場合もあります。死滅した脳の神経細胞の再生はないので(もっとも脳のある部分では神経細胞は再生するとの報告がある)、状態は固定します。認知症の状態も進むこともなければ改善することもありません。
頭部外傷
頭部の外傷は認知症に原因であり、また危険因子でもあります。前者として、転倒などで一回の強い打撲を頭部に受け、1週間から1月以内に生じることがある慢性硬膜下血腫の場合と、激しい頭部の打撲があるにもかかわらずCTでの所見が乏しい脳外傷(いわゆる脳震盪)による場合があります。これらは比較的短期間で認知症が現れます。後者として、長期に繰り返し頭部の打撲を受けた後数年ある20、30年後にアルツハイマー病を発症する可能性がある場合です。アルツハイマー病も含め認知症の予防に頭部外傷の予防が大切です。
脳血管障害
脳血管障害は脳卒中とも言われますが脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の総称です。高齢者では脳梗塞が最も多く、また比較的若い人はくも膜下出血が多い。脳出血は減少傾向です。脳血管障害は発病してそのまま死に至ることもあれば、ほとんど後遺症がない場合もあります。しかし死にいたることが稀で、後遺症を残すことが多く、片方の上下肢の運動麻痺、構音障害、嚥下障害、失語症、それに認知症の状態をもちながら生活を送っている人が多いのが現状です。また脳梗塞、脳出血では再発が少なくなく、再発を繰り返すなかで認知症が現れることがあります。脳血管障害による認知症を脳血管性認知症あるいは単に血管性認知症と呼びます。
脳腫瘍
脳腫瘍は良性のものでも発生する部位によっては運動障害、視力障害、認知症を生じることがあります。早期発見し早期に脳外科的治療で認知症がなくなることもあります。悪性の脳腫瘍−例えば肺癌の脳転移−などでは上記の症状が進行性に悪化し最期は意識障害が生じる。
脳血管性認知症
脳血管性認知症は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の脳血管障害による認知症。DSM−W(DSM−Wでは脳血管性認知症とはいわず血管性認知症という)では認知症の状態にくわえ「局在性神経徴候や症状または臨床検査の証拠が認知症に病因的関連を有すると判断される脳血管性疾患を示す」を条件としています。我が国では脳血管性認知症はアルツハイマー型認知症が多いとされてきましたが、最近の調査ではアルツハイマー病より頻度が少なくなっています。脳血管性認知症の診断は容易なようで注意しなければならないことがあります。脳梗塞がそれによる片麻痺がある、さらに認知症があれば脳血管性認知症と診断してよいわけではありません。認知症の原因は脳梗塞ではなくアルツハイマー病かもしれないからです。このため脳血管障害の経過と認知症の経過とから判断しなければなりません。もっとも後期高齢者に多い多発性脳梗塞では発症時期のはっきりせず経過も緩慢なこともあり、アルツハイマー病との判別が難しいことがあります。脳血管性認知症は、脳梗塞などで発症するわけですが当初から認知症を発症することは少なく再発を繰り返すなかで認知症が次第に現れることが多い。したがって脳血管性認知症は、その危険因子―高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、心房細動など―をよく管理すれば予防も進行防止も可能な認知症です。また少量のアスピリンを服用することで脳血管性認知症の予防、進行防止が可能とする説もあります。
パーキンソン病
手が震えて箸が持ちにくく身体が固くなり小刻み歩行で歩きにくいなどの全身的な運動障害の神経系の病気です。1900前半にイギシスのパーキンソン医師が報告したので名前がつけられました。一般に進行性であり、最期は常時臥床状態となることが多い。進行したパーキンソン病の人で認知症症状を示す場合が少なくありません。パーキンソン病は、抗パーキンソン剤という薬で改善しやすいのですが、その効果が減退することが多い。パーキンソン病症候群という病名は、パーキンソン病とパーキンソン病に似た症状を示す他の疾患によるものを含める場合と後者のみを示す場合とがある。後者についてはパーキンソンニスムとも言い、脳血管障害性パーキンソンニスムと呼びます。なお、日内で変動する認知機能、パーキンソン病様症状、幻視の症状があるレビー小体病と認知症を伴うパーキンソン病とは判別が困難なことがあります。
ハンチントン病
脳内の線条体と呼ばれる部分にある細胞が失われることによって中年期に起こる進行性で遺伝性の病気です。1800年代後半にアメリカのハンチントン医師が報告したので名前がついています。「ハンチントン舞踏病」と言われていましたが、舞踏様の症状が共通するものではないのでハンチントン病と呼ぶようになりました。意思のとおりに動けないこと(舞踏様など不随意運動)、不安定な感情、そして認知症が主な症状です。
ピック病
1892年チェコの神経学者であるピック医師が初めて報告したのでこの名前があります。若年期に発症する代表的な認知症です。しかし発症当初から認知障害は目立たず、初めは性格の変化をして現れることが多い。几帳面な人が服装が乱れても気にしなかったり、きれい好きだったのに風呂に入るのを嫌がったり、頼まれた仕事を中途半端にするなどの変化から発病に気づくことが多い。家族は怠けている、不満がある、うつ状態などと思い病気に気づくが遅れることが少なくありません。本人は病気と捉えることは少なく受診を嫌がります。病気の進行と共に記憶障害などの認知症症状が現れてきます。頭部CTの検査では特徴的に頭の前の部分(前頭葉)の萎縮が著明です。治療方法はなく、介護が中心となりますが、アルツハイマー病以上に困難なことが多い。通常の説明では納得しないばかりか、反論もしっかりしていることがあります。介護の基本は本人の合わせ言うことに逆らわないことですが、実際には難しい。イギリスではピック病支援グループがあり、家族らに情報提供、電話相談、専門職への紹介、デイケアの試みなどが進められています。最近はピック病を前頭葉型認知症と呼んだり、前頭葉側頭葉型認知症グループの一疾患としてとらえることが多くなっています。
まだら認知症
認知症の人は認知機能が低下していますが、記憶、判断、学習、見当識などの機能が同じように低下するわけではなく、低下の仕方にばらつきがあります。最近の出来事はほとんど覚えていないが、昔のことは鮮明に覚えている認知症の人がいます。食事の食べ方は乱れているが、字はしっかり書くことができる認知症の人がいます。こうしたまだら状の認知症に対しては、しっかした部分、すなわち残存機能に目を向け尊重し、できない部分には理解し支えていく対応が求められます。
慢性硬膜下血腫
高齢者が転倒などで頭部打撲した後に頭蓋骨の内側にある硬膜の下にできる血腫。数日から1月後にぼんやりするといった意識低下、歩行障害、時に認知症が現れることがあります。早期発見して脳外科的治療を受けることで治ることが多い外傷性の病気で、代表的な治る認知症のひとつです。
レビー小体病
ドイツのレビー(Lewy)医師が1912年に初めて報告したこの進行性の病気は、顕微鏡で中枢神経系にレビー小体が広く認めます。欧米ではアルツハイマー病、脳血管性認知症についで多い認知症として見られているわりには、わが国ではまだ多くはないようです。レビー小体病の多くは「瀰漫性レビー小体病」で、一日のうちで変動する認知機能、パーキンソン病のような運動障害状および幻覚―多くは幻視―が主な3症状です。原因も治療方法もよくわかっていません。介護は、アルツハイマー病に同じです。パーキンソン病が進行すると認知症が現れることがありますが、これとレビー小体病は区別しておかなければなりません
加齢関連認知低下
主に加齢に伴う認知機能の低下で、軽度認知障害でも認知症でもない状態。英語でAging-associated Cognitive Decline(略称:AACD)といい、国際老年医学会では以下の診断基準を示しています
1.本人または信頼できる他者から認知的低下が報告されること
2.始まりが緩徐で6 ヶ月以上継続していること
3.認知的障害が、以下のいずれかの領域での問題によって特徴づけられること。
(a)記憶・学習、(b)注意・集中、(c)思考、(d)言語、(e)視空間認知
4.比較的健康な個人に対して適応可能な年齢と教育規準が作られている認知評価おいて異常があること。
5.除外規準
上にあげた異常のいずれもがMCI または認知症の診断に十分なほどの程度でないこと。身体的検査や神経学的検査や臨床検査から、脳の機能低下を引き起こすとされる脳の疾患、損傷、機能不全、または全身的な身体疾患を示す客観的な証拠がないこと。
☆☆☆☆☆
うつ状態
うつ状態とは、気分が落ち込んでいる感情(抑うつ気分)、だるい、頭が重い、食欲がないなどの身体的症状、および不眠が大きな症状で、このため、考えたまとまらない、もの覚えが悪いと認知症と見間違いことがあります。もっとも認知症にうつ状態が併せて出ることもあります。うつ状態を便宜的に、躁うつ病としてうつ状態、神経症としてのうつ状態、日常的な心理反応としてうつ状態に分けることができます。躁うつ病では、以前から周期的にうつ状態になる傾向があり、本人もそれとなく状態の変化に気づいていることが少なくありません。このうつ状態には抗うつ剤が有効のことが多い。神経症としてうつ状態(抑うつ神経症)は、何か出来事をきっかけに性格的な反応として、持続的で生活に支障をあり治療的な関わりがないと悪化しやすい。高齢者に多いの、発病、障害の悪化、子供や配偶者との離別や死別、転居、施設への入所など本人にとって不利になること、悲しいことといったできごとに加え、物事を悪く捉え前向きに考えないような性格的傾向とが相まってうつ状態になります。こうしたうつ状態には、カウンセリングなど心理療法と抗うつ剤による薬による治療を合わせて行います。日常的に経験する反応としてうつ状態は、配偶者の死亡や本人の失禁など神経症の場合ときっかけは同じですが、数時間または数日で改善するものです。多くは「日にち薬」でよくなることが多くい。うつ状態の人に接するさいに注意することは、決して激励しないことです。初めは、共感と受容の姿勢で話に耳を傾け聴きます。「それは辛いね」「心配だね」と相槌をうちます。「そんなことでくよくよしてはだめ。もっと元気をだして」「ここでがんばりましょう」とは言わないことです。うつ状態の人が自らの精神状態について理解し整理ができかけたころ少し激励するのはよいかもしれません。しかし、こことき自殺することが少なくないので見守りが必要です。認知症の人もうつ状態になります。もの忘れがひどく情けない、考えがまとまらなく仕事もできないと自分を責めてうつ状態になる事を稀ではありません。うつ状態が認知症の始まりなのか、抑うつ神経症だけなのか判断が必要なことがあり、精神科などの受診が必要でしょう。また、うつ状態はアルツハイマー病など認知症の危険因子とする報告もあります。
家族性プリオン病
致死性家族性不眠症(Fatal Familial Insomnia:FFI)のことで、幻覚、不眠症、不随意運動、認知症を呈する神経変性疾患。プリオン蛋白遺伝子の変異した家系に見られるが、日本では極めて稀です。
記憶障害
記憶障害は認知症の中心的で不可欠な症状です。記憶障害だけの場合で、通常の加齢の伴う場合を生理的記憶障害といい、加齢に関係し病的ではあるが認知症ではない状態を軽度認知障害といいます。また病気な記憶障害だけの状態を健忘症といいます。認知症とは、記憶障害に加え、失語、失認、失行、実行機能障害のひとつがあり、これらのために生活に支障をきたしている状態です。
結晶性機能
人の知的機能のなかで比較的若い頃から長期かつ持続的に形成された機能のことを言います。人の知的機能を便宜的に流動性機能と結晶性機能との分けることができます。このうち結晶性機能とは、生後間もない時期から、あるいは長期にわたって、あるいは持続的に獲得した機能で、精神機能のとして「結晶化」され減退、消失しにくい機能です。例えば、幼少時から覚えた日本語、青年期に覚えた歌、茶碗と箸の使い方、職人として培われた技能などは高齢になっても維持され容易にはなくならない機能です。 認知症が進むなかでこうした結晶性機能さえ衰え失われてゆきます。歌を忘れ、箸の持ち方もわからなくなり、まとまりのある絵も書けなくなり、最期には日本語も乏しくなってしむことがあります。
健忘症
記憶障害だけの状態。加齢に伴う生理的記憶障害を「良性健忘症」と呼ぶことがありますが、通常は、脳の外傷、脳血管障害などで生じ、生活に支障をきたしますが、健忘の程度にもよりますが、もの忘れを自覚して一人で生活は不可能ではありません。認知症や軽度認知障害とも異なる記憶関連疾患で、治療は困難です。
幻覚
幻覚には、見えないはずの物が見えたり(幻視)と聞こえない音や声が聞こえる(幻聴)が多い。認知症に限らず高齢者に生じやすいのは幻視で、ふとんの上に猫がいる、壁に虫がはっているといった症状です。認知症に伴って現れることがありますが、せん妄やパーキンソン病の薬などでも生じることがあります。
幻覚妄想状態
幻覚と妄想が共にあるいは一方だけが現れる状態。通常一時的で、高齢者に少なくなく原因として最も多いのは薬です。抗パーキンソン病剤では、幻覚が生じやすい。幻覚妄想状態は、記憶障害を伴う認知症、意識障害を伴うせん妄で生じることがありますが、持続的な妄想をもつ妄想症とも異なります。
原発性進行性失語症
若年期に発症する失語症で認知症を併発することが多く進行性で、脳細胞の変性が原因です。英語でPrimary Progressive Aphasia (PPA)という。
行動障害
認知症の人の「問題行動」といわれていた一連の行動は介護者の視点からの定義であり、適切な用語でないと、これに代わって「行動障害」という用語があります。「認知症の行動と心理症状(BPSD)」と同じ意味で使われることもあり、簡単に「日常生活のおける目的にかなっていない不適切な行動」と定義することもあります。行動障害の範囲は明確でありませんが、一般的に、徘徊、異食、夜間不眠、不潔行為、暴行、暴言などのことをさします。問題行動は認知障害にもとに認知症の人の精神状態や環境状態によって生じると理解され、これには不適切なケアによっても起ります。なお行動障害は精神医学分野でアルコール依存や薬物依存に伴う行動のことをいい、また小児精神医学分野では発達障害に伴う行動のことをいい、以下のような定義があります。行動障害とは「発達障害を持った人達の環境への著しい不適応を意味し、激しい不安、興奮、混乱の状態で、結果的には、多動、疾走、奇声、自傷、固執、強迫、攻撃、不眠、拒食、異食などの行動上の問題が日常生活の中で出現し、現状の養育環境では処遇困難なものをいい、そうした行動面から定義する群である」(弘済学園園長飯田雅子氏)。
向精神薬
人の精神活動に影響する薬。統合失調症に使用される抗精神病薬、抗不安剤、抗うつ剤、抗躁剤です。睡眠剤、その多くは睡眠導入剤、も向精神薬に含めることがあります。向精神薬は、認知症の人の不安、うつ状態、不眠などの適切に処方されると効果的ですが、不眠、不穏、徘徊などの「問題行動」をコントロールする管理的目的あるいは薬物的拘束として使用されることはできるだけ避けない。さらにアメリカの食品医薬品局(FDA)などでは、抗精神病薬が認知症のBPSD(認知症の行動と心理症状)に無効であるだけでなく、脳血管障害の発病を増やすなど認知症への処方を控えるべきとの提言を出しています。
せん妄
認知症と区別しなけばならない精神障害の一つ。せん妄とは、意識障害があり、幻覚や妄想に伴う不穏な状態をいいます。ぼんやりしている程度の意識障害の場合は認知症と見間違うことがあるがあります。ただし認知症の人がせん妄になるこもあります。高齢者では、発熱、肺炎、手術後に生じやすい。したがって治療は、せん妄の原因疾患を治療することですが、一時的に抗精神病薬を使うと効果的なことがあります。
多発性硬化症
中枢神経系の神経を取り巻いている髄鞘が欠落する疾患で、この脱髄が起こる場所によって症状が異なり多様です。視力低下、視野欠損、眼球麻痺、運動障害、排尿障害などが起こりますが、かならず認知症になるわけではありません。英語でMultiple Screlosisといい、略称MS。
中核症状
認知症の知的機能の低下である記憶障害、判断の障害、見当識障害などの症状。これに伴う幻覚、妄想、不穏、徘徊などを副次症状または随伴症状と言います。
ビンスワンガー病(ビンスワンガー型白質脳症)
ビンスワンガー病は、高血圧や脳の動脈硬化などにより脳の血流障害のため大脳白質(脳の深い部分)が広範に障害されることによって認知症が現れることがあります。急性に発症することもあり、徐々に進行することもあります。記憶障害、うつ状態、意欲の低下、など精神症状のほかに、神経症状としては、緩慢な動作、小刻歩行などがみられます。頭部CTでは側脳室の周囲に対称性の広範な低吸収域がみられるます。
副次症状
認知症の人の記憶障害、判断障害など知的機能の障害を中核症状というのに対して、不穏、徘徊、不潔な行為、うつ状態などを副次症状と言います。
妄想症
認知症と区別すべき精神障害のひとつで、妄想のみで知的機能の低下はありません。妄想の多くは被害妄想で、「隣の人が自分が居ない時に家に入り、金を持って行く」、「嫁がいつの間にかご飯のうえに毒をまいている」など根拠の乏しい被害を訴えます。しかもその思い込みは通常の説明や説得では納得しません。
この妄想症は、女性高齢者に多い傾向を見受けます。しかも一人暮らしの女性です。妄想症の人の生活歴などをみると、もともと猜疑心を強い性格をもって周囲との関係もよくなく、猜疑心のためますますその関係が悪くなり、これが猜疑心を強めるといった悪循環のなかで妄想症がつくれるようです。こうした人は家族内でも人間関係に軋轢が多くなり、離婚、子供達の別居といった関係になり、結果的に一人暮らしになっていると考えます。さらに一人暮らしをすることで自己防衛的になり妄想症を強めるようです。また視力、聴力が低下した高齢者では妄想症が一層強くなります。 妄想症の人は、周囲が悪い、自分が被害者と思っているが、妄想のなかにあって孤立していることが不安が強く、できれば誰かへの依存したいと思っていることがあります。従って、妄想症の人に対しては、威圧的な説得は効果がないばかりか、逆効果です。明らかにありえないと思われる話や訴えにとにかく耳を傾け、話を聞きます。こうして人間関係をつくりながら、「私はそうは思いません」がと宴曲に否定してみるのもよいでしょう。こうした対応をしても周囲とのトラブルが絶えず、精神科病院へ入院せざるをえないこともあります。
問題行動
認知症の人を介護する際に、「問題行動」という言い方をされることがあります。何度も同じことを聞かれる、「お金がなくなった」と問い詰められる、食べ終わったとたん「食べてない」と食事を要求する、「家に帰る」と言い張るなどの言動を「問題行動」と呼ぶことがあります。確かにこうした言動で介護者は困惑し、介護者にとっては「問題行動」でしょう。しかし認知症の人がなぜ「問題行動」をとるのか、介護者の無理解や不適切な対応、生活環境などがその行動の原因になってはいないだろうかと認知症の人の立場に立っての推測することは「問題行動」とは何かを立場を変えて考えることになるでしょう。例えば、失禁は介護者にとってよく遭遇する認知症の人の「問題行動」です。さらにオムツをあてがうと認知症の人は一生懸命取り外そうとするかもしれません。この行動は、介護者からみると「問題行動」でしょうが、認知症の人からみると不愉快なオムツをあてがわれたことが「問題行動」かもしれません。このように介護者と認知症の人のそれぞれの立場で「問題行動」の捉え方が異なり、またある介護者にとって「問題行動」は別に介護者にとってはそうでないこともあります。このため客観的な「問題行動」というものはなく、介護者と認知症の人の間でのことであるため、より客観的な概念として「認知症の行動および心理的症状(BPSD)」という用語が使われるようになっています。
夜間せん妄
夜間に起こるせん妄のことですが、せん妄が比較的夜間に起こりやすいのでこの用語が使われていると思われます。しかしせん妄は軽度の意識障害が伴う幻覚・妄想の状態で不穏になる状態ですが、この状態ではなく、単に不穏というだけで夜間せん妄と言っている例が少なくないようです。確かに認知症の人にとって夜間は認識、判断がしにくい時間帯であり、せん妄のような状態になるか、せん妄の状態が悪化しやすいと思われます。 せん妄の原因(例えば脱水)を推測しながら、その原因治療と部屋を真っ暗にしなしなどの環境面の工夫と、できるだけ安心できるような会話に加え、抗精神病薬が有効なこともあります。
夕暮れ症候群
認知症の人のなかに、夕方になると落ち着かなくなり、「家に帰る」と言ったり、幻覚・妄想が出やすくなることを夕暮れ症候群(英語でSundown Syndromeという)と言います。夕暮れは一日のうちのなかで人を不安にしやすい時間帯です。このときに記憶や判断が低下している認知症の人が精神的に不安定になりやすいことが症状に背景にあると思われます。

